こんにちは!なすのつくだにです。
僕は経理の仕事をしていて、感じたことがあります!
それは、消費税の経過措置がややこしい!ということです。
今回は税金ややこしいシリーズ(勝手に名付けました笑)第2弾です!
税金ややこしいシリーズ第1弾はこちらです↓
税金ややこしいシリーズ第3弾、
「消費税の軽減税率がややこしい! その1・軽減税率の対象編」を書きました!
合わせてご覧ください!↓
「消費税の軽減税率がややこしい! その2・区分記載請求書等保存方式・適格請求書等保存方式編」はこちらです!
そもそも消費税の経過措置ってなに?
まず消費税の経過措置について説明いたします。
消費税率の変更(消費増税)は連日ニュースを賑わせている通り、2019年10月に実施が予定されています。
消費税の経過措置は、それに伴い実施される措置です。
2019年10月に基本的に消費税率は新税率(10%か8%)になりますが、
経過措置に該当する取引の消費税率は旧税率の8%のままとなります。
経過措置の対象となる取引の例は?
経過措置の対象となる取引の例は以下の通り(抜粋)です。
②電気料金等 (31年施行日〜令和元年10月31日の間に料金の支払いを受ける権利が発生するもの)
③請負工事等 (後ほど解説します)
④資産の貸付け (後ほど解説します)
⑤指定役務の提供 (冠婚葬祭などの役務の提供)
…などなど、10パターンがあります。
※26年施行日:平成26年 4月1日、31年施行日:令和元年10月1日
※26年指定日:平成25年10月1日、31年指定日:平成31年4月1日 を指します
詳しくは国税庁HP 「消費税率等に関する経過措置」を参照してください。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/pdf/01.pdf
経過措置は軽減税率とは違うの?
2019年10月に施行される消費税率変更には食品等の税率を8%に軽減する軽減税率が適用されます。
(軽減税率に関しては、税金ややこしいシリーズとして、また記事を書きたいと思います!)
しかし、旧税率の8%(経過措置)と新税率の8%(軽減税率)は消費税率と地方消費税率の内訳が違うため、
消費税申告上も区別して申告しなければならず、会計上も区別して計上しなければなりません!
経過措置の8%と軽減税率の8%は違うものなので注意しないといけませんね!
税率の比較表は以下のものです。
税率名 | 旧税率(経過措置) | 新税率 | 新税率(軽減税率) |
消費税率 | 6.3 | 7.8 | 6.24 |
地方消費税率 | 1.7 | 2.2 | 1.76 |
合計 | 8.0 | 10.0 | 8.0 |
国税庁HP
軽減税率について、以下の記事で詳しく解説しております!
その上、経過措置に関しては「旧税率で計上できる」ということではなく、「旧税率で計上しなければならない」ため、
各取引が経過措置に該当するかどうかを確認する必要があります。
「請負工事等」と「資産の貸付け」がややこしい!
消費税の経過措置は限定列挙のため、適用される取引は多くありません。
また、取引自体が特殊なものが多いため、適用される場面がある程度限られるものも多いと思います。
しかし、この中でも特に下の2つがどの企業にも該当する可能性があり、ややこしいのです!
その取引が以下の2つです!
④資産の貸付け
これから、これら2つについて詳しく解説していきたいと思います!
請負工事等
1つ目に解説したいのが請負工事等です!(あれ、請負工事って以前にも書いたような…)
リーフレット「消費税率等に関する経過措置」には、以下の文言が記載されています。
26年指定日(平成25年10月1日)から31年指定日(平成31年(2019年)4月1日)の前日までの間に締結した工事(製造を含みます。)に係る請負契約(一定の要件に該当する測量、設計及びソフトウェアの開発等に係る請負契約を含みます。)に基づき、31年施行日以後に課税資産の譲渡等を行う場合における、当該課税資産の譲渡等
簡単に書くと、2019年3月31日までに締結した請負契約のうち、
資産の譲渡(工事の完了)が消費税率変更後の10月1日以後になるものに関しては旧税率の8%が適用される、というものです。
なお、31年指定日後に金額の変更があった場合は、
・金額が以前より減額した場合→8%のまま
という処理になります。
(※増額の理由が、当初の工事契約において定められていなかった場合は、その追加工事ごとに経過措置が適用されるかどうか判断することになります)
何がややこしいの?
この請負契約等がややこしい要因には以下のものがあります。
・役務の全部の完了が一括して行われるものであるかの判断
請負契約に該当するか、委任契約に該当するかの判断
以前の印紙税の記事でも解説した通り、そもそも「これは請負契約に該当するのか?」という判断が難しいんです。
似たような内容の契約として、委任契約というものがあります。
請負契約と委任契約の分別をすることが難しいという問題があります。
請負契約なのか?委任契約なのか?
請負契約は工事の完成を約した契約であり、成果物が発生する契約です。
工事の完成の対価として報酬を受け取ります。
瑕疵修補請求権(ミスをしたらその補償を請求できる権利)が発生することも特徴ですね。
一方、委任契約は事務の委託をしている契約であり、
それによって生じた結果に関しては責任を負いません。
また、委任契約は善管注意義務(頑張って仕事をしてね!という義務)が発生するのみで、
請負契約では発生する瑕疵修補請求権は発生しないことも、請負契約との違いとなっております。
請負契約と委任契約の見分け方
以上より、請負契約と委任契約の見分け方に関するチェックポイントをまとめてみました。
(請負契約は成果物が発生し、委任契約は成果物が発生しない)
・何に対する報酬か?
(請負契約は工事の完成に対する報酬であるが、委任契約は委託そのものに対する報酬)
・瑕疵に対する補償義務があるか?
(請負契約は補償義務が発生するが、委任契約は補償義務は発生しない)
詳しい2つの契約の見分け方に関しては、以前書いた下の記事を参照してください。
印紙税に関する記事なのですが、請負契約と委任契約の違いをまとめています!
役務の全部の完了が一括して行われるものであるかの判断
また、契約書の中身をチェックした結果請負契約に該当しても注意すべきポイントがあります。
それは、「仕事の目的物の引渡しが一括して行われる」かどうかという点です。
請負契約だとしても、「仕事の目的物の引渡しが一括して行われる」ものに該当しない場合には経過措置の適用はありません。
ただ、
1 一の契約により同種の建設工事等を多量に請け負ったような場合で、その引渡量に応じて工事代金等を収入する旨の特約又は慣習がある場合
2 一の建設工事等であっても、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約又は慣習がある場合
の場合には、「仕事の目的物の引渡しが一括して行われる」ことに該当します。
以前からこのような取引形態か、契約を結ぶ時に都度収受する文言があったら認められるということですね。
「慣習」がどこまで認められるかが分かりづらく、
ふわっとしていて非常にややこしいですよね…
これは、「請負工事の報酬は工事に完成に対するものであるから、期間で切り分けることが難しいため旧税率を適用している」という趣旨であるからだと考えられます。
その他のポイント
また、通常役務の提供が一括して行われない契約でも、
報酬を2019年10月1日前までに一括して受領してその報酬が変更されない(変更されない)場合は、
収益が確定したものであるため旧税率を適用できます。
歯の矯正治療で治療代を都度もらっている場合などは通常適用されない。
しかし治療費を一括で受領し、患者が途中で治療を止めた場合であっても返還しない場合は適用される。
資産の貸付け
2つ目に解説したいのが資産の貸付けです!
資産の貸付けについて、リーフレット「消費税率等に関する経過措置」には以下の文言が記載されています。
26年指定日から31年指定日の前日までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、31年施行日前から同日以後引き続き貸付けを行っている場合(一定の要件に該当するものに限ります。)における、31年施行日以後に行う当該資産の貸付け
文言自体はシンプルで、2019年3月31日までに締結した契約で、2019年10月1日前から引き続いている場合は旧税率8%が適用される、というものです。
しかし!引用文の中にある「一定の要件」というものが非常にシビアで、悩ましいところです。
一定の要件とは?
「一定の要件」は、具体的には以下の事項を指しています。
1 当該契約に係る資産の貸付期間及びその期間中の対価の額が定められていること。
2 事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと。
3 契約期間中に当事者の一方又は双方がいつでも解約の申入れをすることができる旨の定めがないこと並びに当該貸付けに係る資産の取得に要した費用の額及び付随費用の額(利子又は保険料の額を含む。)の合計額のうちに当該契約期間中に支払われる当該資産の貸付けの対価の額の合計額の占める割合が100分の90以上であるように当該契約において定められていること。
この一定の要件のうち、「①及び②」「①及び③」に該当する場合には旧税率8%が適用されます。
しかし!!!
一般的な資産賃貸借契約書で上の要件を満たすものが多くないのです。
①の貸付期間と期間中の対価の額が定められていることは、ほぼどの契約書にも記載されているため問題ないのですが、
②に関しては、一般的な賃貸借契約書は賃借料の変更を求められる旨の記載があることが多いです。
また、③いつでも解約することができる旨の記載があることが多いです。
契約書のサンプルをもとに「一定の要件」のシビアさを解説してみます
ここで、「一定の要件」のシビアさを解説するために、典型的な賃貸借契約書を書いてみました!
賃貸借契約書
A株式会社(以下、甲)とB(以下、乙)は、以下の通り賃貸借契約書を締結する。
第1条
甲は所有する下記の建物を乙に賃貸し、乙は賃借することを約した。
(建物の情報)
第2条
賃貸借期間は○○年○月○日から○○年○月○日までとする。
第3条
賃料は1ヶ月○○円とする。
2 甲および乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下等により賃料が不相当となった場合
第4条
乙は、甲に対して少なくとも 30 日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から 30 日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して 30 日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
(後略)
第2条、第3条、第4条の部分が今回取り上げている「一定の要件」の部分ですね。
①に関しては、第2条に賃貸借期間、第3条に賃貸料があるため、満たします。
一方、②に関して、第3条の2に賃料改定ができる旨の定めがあるため、満たしません。
また、③に関しても、第4条にいつでも解約の申入れができる旨の定めがあるため、満たしません。
以上より、「一定の要件」を満たさず、経過措置の適用対象とはなりません。
そのため、この「一定の要件」を満たす契約は少ないと考えられます。
以上から、資産の貸付けに係る契約であれば経過措置対象になる!という訳ではなく、
個々の契約書の内容を確認して、一定の要件を満たすかどうかを判断する必要がある、ということですね。
(私も他部署の方から「資産の貸付けなので税率は変わらないよね?」という相談を受けましたが、
一定の要件を確認したらアウト!ということがありました…)
まとめ
今までの事項をまとめたいと思います!
・「請負工事等」は契約内容が請負契約か・役務の提供が完成時に一括で行われるものかに注意!
・「資産の貸付け」は「一定の要件」を満たすかどうかに注意!
記事を書いて改めて感じたのですが、非常にややこしいですね。
微妙な取引も非常に多いと思いますので、その場合は税理士の方などに相談してください!
以上、ありがとうございました!
税金ややこしいシリーズ第1弾はこちらです↓
税金ややこしいシリーズ第3弾、
「消費税の軽減税率がややこしい! その1・軽減税率の対象編」を書きました!
合わせてご覧ください!↓
「消費税の軽減税率がややこしい! その2・区分記載請求書等保存方式・適格請求書等保存方式編」はこちらです!